1. 終わらない「硬い vs 柔らかい」論争
ちょっと、レンくん。オイル交換のことで聞きたいんだけどさ
お、ユイちゃんどうしたの? エンジンオイルは車の血液だからね、大事だよ
この前ネットでオイルのことを調べてたら、みんな『硬いオイルがいい』とか『いや、柔らかいオイルじゃないとダメ』とか言ってて、結局どっちがいいのかわからなくなっちゃって。レンくんがいつも入れてくれるのは『10W-40』だけど、これって硬いの? 柔らかいの?
あ〜、それね。クルマ好きの間じゃ、もう“永遠の論争テーマ”みたいなもんだよ。ユイちゃんの疑問はもっともだ。整備士の俺らも日々、お客さんの車の状態や使い方に合わせてベストな粘度(ねんど)を選んでるからね
みんなも、愛車のエンジンオイルを選ぶとき、「5W-30?」「0W-20?」「いや、10W-40が定番だろ!」なんて会話を聞いたことがあるんじゃないかな?
今回は、この「硬いオイルと柔らかいオイル、結局どっちがいいのか」という疑問に、整備士の視点から終止符を打つべく、それぞれのメリット・デメリット、そしてなぜ論争が生まれたのかを、中学生でもわかるくらいかみ砕いて解説していくよ。
結論から言うと、「どっちがいい」という単純な答えはない。「そのエンジンと使い方に合っているか」がすべてなんだ。じゃあ、まずはこの論争の背景から見ていこう!
2. なぜ“硬い vs 柔らかい”論争が生まれたのか?(背景)

そもそも、なぜエンジンオイルの粘度(硬さ)を巡って、これほど意見が対立するんだろう? その背景には、「車の進化」と「環境問題」が深く関わっているんだ。
昭和〜平成初期のエンジン設計と硬いオイルの役割
論争が始まった大きな要因は、昔のエンジン構造にある。
昭和から平成初期のエンジンというのは、現代のものと比べて「クリアランス(隙間)」が広めに設計されていたんだ。(技術的な背景から、パーツの加工精度が今ほど高くなかったという事情もある)
エンジン内部では、ピストンがシリンダーの中を高速で上下運動しているよね。このピストンとシリンダーの間には、わずかな隙間がある。
昔のエンジンは、この隙間(クリアランス)が今より広いため、粘度の高い(硬い)オイルを使って、厚い油膜を作ってあげることが重要だったんだ。
- 硬いオイルの役割(当時):
- 密閉性の確保:厚い油膜で隙間を埋め、燃焼のパワーが逃げるのを防ぐ(圧縮を保つ)。
- 摩耗防止:高温になったときでも油膜が切れずに、金属同士の接触を防ぐ。
イメージで言うと、昔のエンジンは「厚めのクッション(硬いオイル)」がないと、しっかり密閉できない設計だったわけだ。
現代のエンジン:技術進化が柔らかいオイルを可能にした
じゃあ、現代のエンジンはどうだろう?
今のエンジンは、超高精度な加工技術で作られている。ピストンとシリンダーのクリアランスは極限まで狭く、寸分の狂いもないように作られているんだ。
その結果、柔らかい(低粘度の)オイルでも、十分な油膜を保つことができるようになった。
- 現代のエンジンと柔らかいオイル:
- 狭いクリアランス:そもそも隙間が狭いから、厚い油膜(硬いオイル)は必要ない。
- 低抵抗化:柔らかいオイルはエンジン内部の抵抗が少ないため、燃費が良くなる。
つまり、論争の背景にあるのは、「硬い=(昔の)エンジンを守れる」という価値観と、「柔らかい=(現代の)エンジン効率と環境に優しい」という新しい価値観の対立なんだね。
現代でも“硬めを選ぶ派”がいる理由
メーカーは「0W-20」などの低粘度オイルを推奨しているのに、なぜ今でも「硬めを選ぶ派」がいるんだろう?
それは、車の使い方やエンジンの状態が、メーカーの新車時の想定と異なるからだよ。
- 走行距離が多い車(10万km超):長年使っていると、エンジン内部のパーツが摩耗して、新車時よりクリアランスがわずかに広がってしまう。そうなると、硬めのオイルで密閉性を回復させたい、と考える。
- オイル減りが気になる車:エンジンが熱くなったときに、オイルが燃焼室へ入り込んで燃えてしまう「オイル上がり」や、部品の隙間から漏れてしまう「オイル下がり」。これも硬いオイルで軽減できる可能性がある。
- 夏場の高負荷運転(高速道路・山道):オイルが特に高温になる環境では、油膜切れのリスクを減らすため、あえて硬めのオイルを選ぶ。
3. 硬いオイルが選ばれる理由と特徴

硬いオイル、すなわち高粘度オイルが支持されるのは、なんといってもその「圧倒的な保護性能」に尽きる。オイル粘度の表記で言えば、「10W-40」「15W-50」「20W-50」などのオイルだね。
油膜が厚く高温・高負荷に強い
オイルの「硬さ」は、例えるならハチミツに近い。ハチミツを指でこすっても、簡単には切れないよね? 硬いオイルも同じで、エンジンが高温になり、金属部品同士に大きな力がかかっても、厚い油膜がしっかりとクッションとして機能し続けるんだ。
特に、ターボ車やスポーツ走行など、エンジンをレッドゾーン近くまで回すような高負荷な運転をする場合は、この油膜の厚さがエンジンの寿命を大きく左右する。
摩耗防止とノイズ低減のメリット
硬いオイルは、摩耗防止効果が高い。
- 摩耗防止:油膜が厚いので、金属同士が直接触れ合うことを徹底的に防ぐ。これは、エンジンの耐久性(長持ちさせる力)に直結するんだ。
- ノイズ低減:油膜がクッションの役割を果たすことで、エンジン内部の「カチカチ」といったタペット音やメカニカルノイズを吸収し、エンジン音を「落ち着かせる」効果もある。
具体的な粘度の解説
- 10W-40:高温時の保護性能(40)と、始動性(10W)のバランスが非常に良い。後述するけど、まさに「迷ったらこれ」という定番粘度だ。
- 15W-50 / 20W-50:さらに高温時の粘度が高い(50)。サーキット走行や、クラシックカー、大排気量のバイクなど、徹底的に保護性能を重視したい場合に選ばれる。ただし、粘度が高すぎると抵抗が増える分、燃費は悪くなるし、エンジン回転のレスポンスも少し重くなる傾向がある。
4. 柔らかいオイルが選ばれる理由と特徴
対して、低粘度オイル、すなわち柔らかいオイルは、現代の車において「メーカーが推奨する主流」だ。表記で言えば、「0W-20」「0W-16」「5W-30」などがこれにあたるね。
燃費向上・始動性・抵抗低減の利点
柔らかいオイルのメリットは、主に「効率」に集約される。例えるなら「水」に近い。サラサラで抵抗が極めて少ないのが特徴だ。
- 最大のメリット:燃費向上
- 抵抗が少ないため、エンジン内部のフリクションロス(摩擦によるエネルギー損失)が減り、同じガソリン量でより遠くまで走れるようになる。メーカーが低粘度化を進める最大の理由がこれだ。
- 低温始動性の向上(W前の数字):
- W(Winter)の前の数字が小さいほど、「冷えた状態(特に冬場)でいかに早くサラサラでいられるか」を示す。0Wは、寒冷地でもエンジン始動と同時にオイルがエンジン隅々まで素早く到達し、摩耗を防ぐ効果が高い。
現代の合成油は柔らかくても高い潤滑性能を持つ
「柔らかい=守れない」というのは、大きな誤解だ。
昔の柔らかいオイルは、確かに保護性能に不安があったかもしれない。でも、現代の低粘度オイルは、技術の進歩で開発された「高性能な合成油(化学合成油)」が主流になっている。
- 高い潤滑性能:柔らかくても、添加剤の力で油膜の強さ(せん断安定性)を維持している。
- 油圧の安定:特に、可変バルブタイミング機構(VVT)など、オイルの油圧を使って動く部品が増えた現代のエンジンでは、指定された粘度で油圧を安定させることが、エンジンを正常に動かすために必須なんだ。
もし、メーカーが「0W-20を入れろ」と指定しているエンジンに、勝手に「20W-50」のような硬すぎるオイルを入れたらどうなるだろう? オイルが硬すぎて、油圧制御が必要な部品が正しく動かず、最悪の場合、エンジンチェックランプが点灯することもあり得るんだ。
5. どちらが正解?環境・車種別に見るベスト粘度
結局のところ、あなたにとって「正解」となる粘度は、あなたの車の「指定粘度」と、「車の状態・使い方」の二つの軸で決まる。まずは車の取扱説明書やボンネット裏を見て、メーカーが指定している粘度を確認しよう。
その上で、以下の表を参考に「硬め」か「柔らかめ」かを判断してみて。
| 車両・環境の条件 | おすすめの粘度傾向 | 主な理由(整備士コメント) |
| 最新のエコカー (新車〜5万km) | 柔らかめ (0W-20, 5W-30) | 「燃費性能が最優先。指定粘度が一番!」 |
| 過走行車 (10万km超) | やや硬め (5W-40, 10W-40) | 「摩耗で広がった隙間を埋め、密閉性を回復させたい。」 |
| 夏場の街乗り/長距離 | 指定粘度 | 「メーカー指定でOK。気になるなら高温側を一つ硬くても。」 |
| サーキット/過酷な走行 | 硬め (10W-50, 15W-50) | 「高温・高負荷に耐える厚い油膜が絶対必要。」 |
| 旧車/クラシックカー | 硬め (15W-50, 20W-50) | 「昔の広いクリアランス設計には高粘度が不可欠。」 |
| オイル減りが気になる車 | やや硬め (10W-40, 5W-40) | 「粘度を上げて燃焼室へのオイルの浸入を軽減させる。」 |
| 寒冷地(冬場) | 低温側を柔らかく (0W-XX) | 「始動時の負担軽減と素早いオイル循環のため。」 |
6. 結論:10W-40は“バランス型”として理想的
もしあなたが、
- 指定粘度より少しだけ保護性能を上げたい
- 過走行だけど、極端な高粘度は避けたい
- 旧車ではないが、昔ながらの設計の車に乗っている
- 燃費と保護性能のいいとこ取りをしたい
と考えているなら、整備士が最終的な“妥協点”としておすすめするのが、まさにユイちゃんも入れている「10W-40」だ。
硬すぎず柔らかすぎない中間粘度
10W-40は、
- 低温側「10W」:極度の寒冷地でなければ、始動時のオイル循環速度として十分実用的。
- 高温側「40」:高温時でも油膜がしっかりと残る、高い保護性能を持つ。
この絶妙なバランスが、日本の多くの環境や、多種多様なエンジンにとって、非常に扱いやすく、「油膜の強さ・燃費・温度耐性」の三要素をハイレベルで両立させているんだ。
もちろん、最新のエンジンでメーカーが0W-20を強く指定している場合は、下手に硬くする(10W-40など)とエンジンの性能を損なう可能性もあるから、まずは「指定粘度から一つだけ硬くする」程度に留めておくのが安全だよ。






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