プロもやってる“緩み対策”とは|冬タイヤ交換での脱輪トラブルを防ぐ方法

寒さが厳しくなり、街に冬タイヤを装着した車が増え始めると、「今年も冬の準備がきたな」となりますよね。タイヤ交換は季節のルーティンですが、実はこれは単なる準備ではなく、「命を守るための最も重要な工程」です。

毎年、冬タイヤへの交換シーズンには必ずと言っていいほど、交換直後の脱輪事故がニュースになります。特にDIYで交換した車や、量販店で急いで作業した車で発生しがちです。原因のほとんどは「ナットの締め付け不足」や「確認不足」という、防げるミス。私たちは、この事故の現実から目を背けず、プロの現場で当たり前に行われている“安全点検”から学び実生活に取り入れていきましょう。

あなたとあなたの大切な人を守るために、今一度タイヤ交換の基本と、見落とされがちな安全テクニックを一緒に確認しましょう。

冬のタイヤ交換で絶対に気をつけたい基本ポイント

冬タイヤへの交換は、見た目は簡単でも非常にデリケートな作業です。特に重要なのは、「適正な力で正しく取り付ける」ことです。これが脱輪を防ぐ第一歩になります。

ナットの締め付けトルクを必ず確認(トルクレンチの必要性)

タイヤのナットは、ただ力任せに締めれば良いわけではありません。強すぎてもボルトを破損させ、弱すぎても走行中に緩んで脱輪の原因となります。ここで必要となるのが、トルクレンチです。

トルクとは、締め付ける「力」のことを指します。車種ごとにメーカーが定めた適正トルクがあり、これに基づいて正確な力でナットを締め付けることが不可欠です。クロスレンチや電動インパクトだけで作業を完了せず、最後は必ずトルクレンチを使って、カチッと音が鳴るまで確実に締めましょう。

筆者も以前、手ルク(手の感覚)で締めていたら、車種によって必要な力が全く違うことに気づき、すぐにトルクレンチを導入しました。感覚は本当に当てになりません。

ナットの座面形状(球面・テーパー)の違いと選び方

ナットには、ホイールと接する部分の形状(座面)に種類があることをご存知でしょうか。一般的な乗用車では、斜めにカットされた「テーパー座」か、丸みを帯びた「球面座」、平らな「平面座」のどれかを採用しています。

この座面形状が合っていないナットを使うと、ナットとホイールの間に隙間ができ、走行中に確実に緩んでしまいます。特に社外ホイールに交換している場合は、純正ナットが使えないことがあります。ナットを購入する際は、必ずホイールの座面形状に合ったものを選ぶ必要があります。

ホイール取り付け面の清掃(サビ・汚れ除去)

「ホイールをはめ込むだけ」と思われがちですが、ホイールが取り付けられるハブの接合面には、サビや泥、古い塗料などが付着していることがよくあります。

この汚れを放置したまま締め付けると、汚れの厚みで一時的にトルクが出ても、走行中の振動で汚れが落ちてしまい、実質的な締め付けが緩んでしまう現象が発生します。交換前には必ずワイヤーブラシなどでハブとホイールの接合面を丁寧に清掃し、完全に密着した状態で締め付けることが、緩み防止の地味ながら最も重要な対策です。

交換後の再トルクの重要性(50〜100km後に増し締め)

タイヤ交換で最も見落とされやすいのが、この増し締め(再トルク)です。どんなに正確にトルクレンチで締めても、走行によってタイヤやホイールが馴染んだり、取り付け面の微妙なズレが解消されたりすることで、初期の締め付けトルクが落ちることがあります。

そのため、交換後50kmから100km走行した後にも、必ずもう一度トルクレンチを使って増し締めを行う必要があります。この一手間を省くと、数日後の脱輪事故のリスクが格段に高まります。

対角締め・均等締めの基本(締めすぎ・片寄り防止)

ナットを締める順番も非常に重要です。一つのナットだけを強く締めすぎると、ホイールが中心からズレてしまい、他のナットが正しく締め付けられなくなります。

正しい締め方は、対角線上のナットを順番に、何周かに分けて均等に締めていくことです。最初は手で仮締めし、次にトルクレンチで最終トルクの半分程度まで対角で締め、最後に適正トルクで対角で締める。このプロセスを踏むことで、ホイールがハブの中心にぴったりと密着し、負荷が均等にかかるようになります。

脱輪事故は“整備ミス”ではなく“確認不足”で起きる

脱輪事故のニュースを見て、「プロが整備しても起こるなら仕方がない」と思うかもしれません。しかし、多くの事故は、作業そのもののミスよりも、「確認を怠ったこと」という共通の原因で起きています。

実際の事故データやJAFの出動事例を見ても、「一応締めたから大丈夫だろう」「昨日確認したから」といったドライバーの思い込みや過信が事故を引き起こすトリガーとなっています。一度緩みが生じると、走行中の振動でその緩みは急速に進行し、あっという間に脱輪に至ります。

タイヤ交換後の安全を確保するためには、「すべては緩む可能性がある」という危機意識を持ち、徹底的な再確認のルーティンを組み込むことが不可欠です。

プロ現場で行われている“脱輪防止のテクニック”紹介

私たちは一般ドライバーですが、プロの現場で行われている高度な安全点検の知恵を、日々の点検に取り入れることは可能です。特に大型車両の現場では、脱輪防止は「絶対」のテーマであり、独自の確認テクニックが確立されています。

点検ハンマーによる打音チェック(緩みを音で察知)

ダンプカーやトラックのドライバーは、出発前に必ずと言っていいほど点検ハンマーでナットを叩く音を確認します。

これは、ナットが適正に締まっていると「コンッ」という澄んだ高い音が出るのに対し、緩んでいると「ゴンッ」という鈍い音が混ざることを利用したチェック方法です。一般車でハンマーを使う必要はありませんが、プロが「音」で緩みをチェックするほど、五感をフルに使った点検が重要であるという意識を学ぶべきでしょう。

ボルトの油性マークによる緩み可視化法(線ズレ確認)

運送業界の現場で最も一般的で有効なのが、マーキングによる確認法です。ナットとボルト、またはナットとホイールの間に、油性ペンで一直線に印(マーク)を引きます。

もし走行中にナットが少しでも緩むと、この直線がズレて曲がります。マークのズレは「緩みが始まったサイン」であり、目視だけで緩みを簡単に可視化できる、非常に効果的なテクニックです。DIY後にもこのマーキングをしておけば、日常点検で緩みを早期に発見できます。

ナットインジケーターなど緩み検知グッズの活用(DIYにも応用可能)

一部の運送会社では、ナットに取り付けると、緩みが生じた際にインジケーター(目印)が回転し、緩みを遠くからでも一目で確認できるナットインジケーターという専用パーツを導入しています。

DIY整備でも、上記で紹介したマーキングや、緩み止め剤(ネジロック剤)の活用など、「緩みを見える化する」ための工夫を取り入れることが、安全への確実な投資になります。

DIY整備でもできる安全確認ルーチン

プロの知恵を取り入れ、あなたのガレージでのDIY整備を確実なものにするための安全ルーチンをまとめます。

  1. 清掃の徹底 取り付け前にハブとホイールの接合面を必ず清掃し、密着性を確保する。
  2. 適正トルクでの締め付け トルクレンチを使って、メーカー指定の適正トルクで対角線上に均等に締め付ける。
  3. マーキングの実施 締め付け後、すべてのナットとボルトに油性ペンでチェックマークを施し、緩みを可視化する。
  4. 再トルクの実行 走行距離50kmから100kmを目安に、必ずすべてのナットの増し締め(再トルク)を行う。

このルーチンを習慣化することが、Kazuro Garageが目指す安全文化を共有する意義につながります。

まとめ|タイヤ交換は“整備”ではなく“命の準備”

冬タイヤ交換は、単に夏タイヤから付け替える整備作業ではありません。それは、凍結路や雪道という厳しい環境で、あなたと家族の安全を確保するための「命の準備」です。

たった一本のナットの緩みが、制御不能な重大事故を引き起こす可能性を常に意識してください。締め付けトルクを守り、そして最後に「見て・触って・聞いて確認する」という原点回帰のメッセージを心に留めてください。プロの安全テクニックを取り入れ、不安要素をゼロにすることで、安心して冬のドライブを楽しみましょう。

【編集後記(Kazuro Garage)】

ダンプや大型車は、過酷な環境で重い荷物を運ぶため、彼らにとってタイヤの脱輪は「絶対にありえない」リスクです。そのため、ドライバーたちは点検ハンマーの音の違い、油性マークのズレを日常点検の一部としています。この徹底した現場の安全文化は、一般ドライバーにも取り入れていただきたいです。

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